(サブリナの金塊、霧に消えた真実)
第一節 影を読むという行為
第13話で描かれた「影に刻まれた文字」。
それを解読しようとした研究者たちは、当初、単なる言語や暗号だと考えていた。
だが解析を進めるほどに、彼らの脳裏に奇妙な現象が起こり始めた。
文字を読むのではなく――文字に“読まれている”感覚。
視線を合わせた瞬間、影が生き物のように蠢き、研究者の意識に別の記憶を流し込むのだ。

第二節 奪われる自己
研究者ハロルド・ミルフォードの記録には、次のようにある。
「私は誰かの子供時代を体験した。
自分ではない人生を思い出し、その代わりに自分の家族の顔を忘れた。」
つまり「影を読む者」は、他者の記憶を取り込みながら、自らの記憶を失っていく。
この現象を、後に学者たちは「記憶の継承」と呼んだ。
第三節 継承者という存在
影を読み続けた者は、次第に自我と他者の境界を失う。
やがて彼らは、自分が誰なのかを問わなくなる。
霧の盟約は、こうした存在を「継承者」と定義した。
継承者は個人としては消滅するが、代わりに「盟約全体の記憶」を保管する生きた器となる。
その瞳には光がなく、ただ影の文字が揺れている。
第四節 禁じられた継承の儀式
霧の盟約の内部文書によれば、この継承の仕組みは「供物の儀式」として古代から行われてきた。
- 影に刻まれた文字を読む
- 記憶が他者に移される
- 読んだ者は自己を失い、次代の継承者となる
こうして代々、影に蓄積された記憶は盟約の支配層に引き継がれ、人類史の裏側に連綿と流れ続けてきた。

第五節 影に潜む危機
しかし、この継承は万能ではない。
継承者の中には、記憶の奔流に耐え切れず精神が崩壊する者もあった。
崩壊した継承者は人としての影を残さず、“存在そのものが消える”。
霧の盟約が残した警告にはこう記されている。
「影を読むことは未来を継ぐことなり。
だが読む者を誤れば、未来そのものが失われる。」
第六節 南極の真実へ
こうして「継承者」という存在は、霧の盟約が人類史を操ってきた秘密の核であった。
南極の氷壁、鏡面の書庫、八角塔――すべては記憶を蓄え、継承し、そして削除するための仕組みに過ぎない。
そして第14話の結末で示される真実は一つ。
南極は大陸ではない――それは人類の記憶を継承する“影の書庫”そのものだ。
📘次回(第15話・最終話)予告
「霧の盟約の終焉 ― 記憶を取り戻す時」
影に刻まれた文字を読み継いだ者たちの末路は、盟約そのものの終焉を示していた。
すべての記憶が解放されたとき、世界は初めて「本当の歴史」を知る。
だがその代償は、人類が未来を持てなくなることだった――。