(サブリナの金塊、霧に消えた真実)

■ ロンドンに届いた“氷の手紙”
1912年1月17日、ロンドン・レイランド商会の事務所に、差出人不明の木箱が届いた。
重さはおよそ6kg。外装は厚い氷で覆われ、運搬の途中にも溶ける気配はなかった。
開封作業に立ち会った記録によれば――
「氷を砕くと、中から金属製の筒が現れた。
筒の内部には、極薄の羊皮紙の束が巻かれていた。」
その羊皮紙には、奇妙な特徴があった。
手触りは乾いているのに、表面温度が氷点下5℃を維持していたのだ。
さらに、記されている筆跡はインクではなく、光をわずかに反射する鉱物質で描かれていた。
■ 筆跡の主は“生者”ではない
専門家が解析した結果、その鉱物質は微量の氷晶化マグネタイトと未知の有機結合体で構成されており、人間が自然環境で作り出すことは不可能とされた。
筆跡は、一定の筆圧の変動がまったくない。
通常の人間であれば、呼吸や脈動によってわずかな揺らぎが生じるが、この書簡にはそれがなかった。
古文書学者のリチャード・ウェルフォードは、これを「熱を持たぬ筆跡」と呼び、こう記している。
「これは死者の手によるものか、あるいは人ではない何者かによる記録だ。」
■ “氷封下の報告”の内容
羊皮紙には、計11の短い段落が記されていた。
そのうち最も衝撃的だったのは、第7段落と第9段落だ。
第7段落にはこうある:
「沈む船の底、金は眠る。
しかし海はそれを抱かず、氷がそれを守る。」
第9段落はさらに不可解だ。
「地は大陸にあらず。
白の縁は円環であり、その外には空も海もない。」
この一文は、我々が南極と呼ぶ存在を**“大陸”ではなく環状の壁**として描写しており、第2話の終盤で触れられた「南極は大陸ではない」という主張と符合する。
■ レイランド・パピルスの行方
レイランド商会は、この羊皮紙を「極秘扱い」として金庫に保管したが、1914年の戦争勃発と同時に消息を絶つ。
しかし、1998年、南米パラグアイの古書商が所蔵していた断片がオークションに出品され、「レイランド・パピルス」という名で再び世に知られることとなった。
その断片の余白には、羊皮紙とは異なる筆跡で次のように走り書きされていた。
「彼らは声を持たぬ。
だが記憶を送ることはできる。
この書簡は、氷の中で受け取った通信だ。」
■ 通信の送り手
解析班の推測によれば、この“通信”は電波でも音波でもなく、氷を媒体にした情報転送だった。
極低温下で氷の結晶構造が変化し、そこに磁気的情報が封じられるという、現代科学でも解明されていない現象だ。
つまり、この羊皮紙はただの記録ではなく――
「氷そのものが通信媒体であり、受信結果を羊皮紙に転写したもの」
であった可能性が高い。
■ 霧の盟約との関係
筆跡解析の過程で判明したのは、書簡の第3段落に現れる印章だった。
それは、三重の円環に12の点を配置した意匠で、霧の盟約が古代中近東時代に使用していた**“十二支族の一印”**と一致していた。
もしこの通信が本物であるならば――
霧の盟約は、人類が知らぬ“氷の彼方の存在”と接触していたことになる。
■ 最後の一文
羊皮紙の末尾には、氷晶の輝きがかすかに残る一文が記されていた。
「封印は解かれた。
だが沈黙は終わらない。」
これは、前回の第7話で明らかになった“第七の封印”と同一の出来事を指しているのか、それとも別の封印なのか――。
📘次回(第9話)予告
「氷壁の座標 ― 失われた緯度経度と円環の真実」
南極地図から消された一対の座標。
そこには、世界を囲む“白い縁”の秘密を解く唯一の門があるという。
だが、その座標を記した者は、必ず姿を消す。