「霧の盟約(The Covenant of the Veil)」

「霧の盟約、歴史を操る」

西暦1899年、ニュージーランド南部――タウポ湖南岸の山地に位置するマカイリ鉱山で、未曾有の失踪事件が発生した。 記録によれば、22番坑道で作業に従事していた92人の鉱夫が、ある夜一斉に姿を消したのだ。現場に争った形跡はなく、残されたのは、整然と置かれた工具と、無人のヘルメットだけだった。

この事件の調査記録は、直後に鉱山運営会社レル鉱業によって封印された。 公式発表は「坑道内崩落による死亡事故」。 だが、地質学者も構造技師も、「あの場所に崩落の兆候はなかった」と証言している。

マカイリ鉱山22番坑道

■ 「22番坑道」の異常構造

22番坑道は、マカイリ鉱山の中でも特異な“深部脈”と呼ばれる地層を掘削していた。 この地層には、金・銀・タングステンが不自然な密度で重なっており、「人工的な鉱脈のようだ」とまで言われていた。

失踪当日の調査報告書には、坑道奥で**“逆文字が彫られた黒い石板”**が発見されたという記録がある。

この石板には、「MIRAI-K」または「K-IAЯIM」のような文字列が刻まれていた。 解析不能。だが、後に霧の盟約の内部文書に同一記号が見つかる。

■ 禁じられた石板と“封鎖”

石板発見の数時間後、坑道の通信機器が一斉に沈黙。 翌朝、調査隊が坑道に入ると、床のあちこちに三角形の焼痕が刻まれていた。 空気は乾燥しているにもかかわらず、壁は濡れていた。水ではなく、粘性のある灰色の液体だったという。

生存者はゼロ。 坑道は数日後、コンクリートで完全に封鎖された。

22番坑道は、記録上から抹消された。

禁じられた石板

■ 金塊と“あの夜”の一致

奇妙な一致がある。 サブリナ号が出航したのは、この事件からわずか1年後。 しかも積まれていた金塊には、「No.22 / Makaeri」――つまり、この22番坑道で採掘された金が使われていた

さらに調査が進むと、この金塊には微細な磁気異常が存在することが判明した。 同様の磁場反応は、22番坑道の中央部でも観測されていた。

学者たちはこの金属を「共振鉱」と仮称し、時間干渉に類似する現象を引き起こす可能性を指摘した。

■ 消えた92人の“再出現”

事件から12年後の1911年。チリ・パラナル高地の天文観測所で働く職員が、施設周辺で不審な集団を目撃したと報告している。

彼らは全員ヘルメットをかぶり、古い鉱山服を着ていた。だが、服のタグには “Makaeri Co. 1899” の文字があった。

翌日、その集団は跡形もなく消え、現地の防衛隊による捜索でも発見されなかった。

サブリナ号

■ 再び浮上する「霧の盟約」の影

この一連の事件は、当初は超常現象として片付けられていた。 だが、1947年、ある元鉱夫の遺族が残した未発表の手記に、こんな記述がある。

「坑道の奥には、“壁のようで壁ではないもの”があった。 中へ入った者は、戻ってこなかった。 霧が、それを“保管している”ようだった。」

また、石板の記号は、霧の盟約が使用する古代文字体系の中で「封印領域」を表すとされている。

つまり――あの坑道は「掟に従って封じられた」場所だった。

南極は大陸ではない。

■ 南極への接続 ― そして「地形ではない南極」

22番坑道で採掘された金塊は、なぜ南極へ運ばれたのか。 それは、あの金属がただの財産ではなく、南極のある“非大陸的領域”と共鳴する物質だったからだ。

この「共鳴領域」とは、現代の地図には描かれない。 だが、霧の盟約が残した「海底星図」には、南極の一部が“空間的交差点”として記されている。

そして彼らは語る。

南極は大陸ではない。 それは、記憶の蓋であり、歴史を閉じ込めた“装置”そのものだ。
📘次回(第5話)予告「ロス島の記憶 ― 捕鯨と記録装置《SAB-22》」 サブリナ号が寄港した南極・ロス島。そこには盟約の試験施設「SAB-22」があった―― 氷の下に埋められた装置は、何を“記録”し、誰のために“封印”されたのか?

Posted in