「霧の盟約(The Covenant of the Veil)」

「霧の盟約、歴史を操る」

霧の盟約、フードの男
霧の盟約 フードの男

「この金塊は存在しないことになっている」

──1887年、BNZロンドン本部 地下書庫・第13金庫 記録官メイソンの覚え書きより。

ロンドン・フィンズベリーに現存する英国銀行BNZ(Bank of New Zealand)旧本部。その地下には、一般に公開されていない「第13金庫」と呼ばれる特別区画が存在していた。

そこに、22番と刻まれた金塊の原型が一時的に保管されていた記録がある。

この金塊は、ニュージーランド・マカイリ鉱山で採掘された特殊合金製の試作品で、重量143kg、BNZとマカイリ鉱山の共同管理下で保管されていた。

だが――サブリナ号が出航する3日前、この金塊が突然、記録上から“抹消”される。

■ 不可解な消失処理

銀行の財務記録を精査した歴史家アンドリュー・コルヴィンによれば、当該金塊の記録には奇妙な符号があるという。

帳簿上にはこう書かれていた:

貨物No.22:移動記録なし/在庫確認済/閲覧制限・オメガコード指定

「オメガコード」とは、当時BNZが用いていた最高機密指定の内部暗号で、主に王室関連資産や海外干渉事業に関するものにのみ適用される。

なぜ、単なる金塊にこの暗号が付されていたのか?

コルヴィンはさらに指摘する。

「22番金塊は通貨金ではない。これは明らかに儀式的・象徴的な役割を持つ“鍵”だった」

■ 銀行と盟約の結節点

この金塊には、実は刻印がもうひとつ存在していた。

BNZとマカイリ鉱山の標準刻印とは別に、“ΣΩ”という二文字が底面に刻まれていたという証言が残っている。

この刻印は、霧の盟約の古符号で「知識の封印」を意味する文字だ。

かつて12支族に継がれた契約文書にも、同じ記号が用いられていたことが、現存するセラミック板により確認されている。

つまり、ロンドンの金融中枢が“何か”を知っていた。

いや――**「協力していた」**可能性があるのだ。

サブリナ号の金塊
サブリナ号の金塊

■ 「消された輸送計画」の痕跡

サブリナ号が積載する直前、この金塊の輸送ルートには複数の“すり替え”が施されていた。

本来ならばBNZからオーストラリア経由で女王直属の海運会社に渡るはずだった積荷が、なぜか極秘ルートで捕鯨会社サザン・ホエール社に移管されている。

しかも、その手続きには**“死者の署名”**が使われていた。

輸送命令書に記された名――「E.ハミルトン」は、記録上すでに3年前に死亡していたはずの元BNZ役員だった。

■ “記録上の不在”が意味するもの

この金塊は、誰の命令で、何の目的でロンドンから南極へ送られたのか?

浮上するのは、「霧の盟約」への資金援助という仮説である。

ある古い匿名報告によれば、ロンドンでは1890年代後半から**“時間干渉技術”**の開発に関わる秘密結社が存在していた。

その記録にはこうある。

「金塊は回路を維持する“共振媒質”であり、特定の磁場下で発光する構造を持つ。

それを使い、我々は“あの記憶”を見たのだ。」

あの記憶――とは何か。

そしてそれは、なぜ南極でのみ再生可能だったのか。

南極を行くサブリナ号
サブリナ号

■ 金塊の本当の価値

現在、22番金塊は「海底に沈んでいる」とされる。

だが近年、一部の研究者はその“本体”がすでに回収され、南米の高地施設へ運ばれている可能性を示唆している。

この施設とは、スペイン植民地支配の及ばなかった「沈黙の谷」と呼ばれる地帯。

そして、そこに存在すると言われるのが――「第二の扉」。

この金塊はただの財宝ではない。

それは、記録されるはずのなかった歴史の“鍵”だった。

そして、この金塊が送られた“最終地点”こそ、

世界地図に描かれていながら、真実の姿を誰も知らぬ場所。

南極――だが、決して“大陸”ではない場所。

それは、霧の盟約が世界から目を逸らせ続けた、“記憶の地形”である。

📘次回(第4話)予告

「沈黙する鉱山 ― マカイリ22番坑道と失踪した92人」

金塊の採掘地マカイリ鉱山で、なぜ一夜にして92人の労働者が消えたのか?

坑道に刻まれた“逆文字”と、封鎖された通路の奥に残された「合成石板」の正体とは?

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