第2話:霧の盟約 ――封印された起源の記録

シーズン1:起源の霧
あまりに古く、あまりに深い。
「霧の盟約」は、“文明”と呼ばれるものがこの地上に誕生する遥か以前――沈んだ陸の記憶から始まっている。
その名前は残されていない。
ただ、ある秘密文書にはこう記されている。
「海の底に埋もれし光の都より、霧は立ち昇った」
それは、ある一つの知識を護るための契約だった。
真理に触れてはならぬ者たちから、それを遠ざけるための誓い。
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■ ノアの洪水と「十二支族の分裂」
地殻が揺れ、天が裂け、大地を呑み込んだ“第一の大災厄”。
神の裁きとも伝わるその出来事――後世、ノアの洪水と呼ばれるそれを生き延びた者たちの中に、「霧の掟」を継ぐ者がいた。
彼らは中近東に逃れた。
そこで新たに築かれた一つの民族――十二の支族の中に、特別な記憶を継ぐ支族があった。
その支族には、他の者とは違う「夜の学び」があった。
火ではなく、霧の光で文字を綴り、声ではなく、沈黙で誓いを交わす文化。
この支族は、やがて表舞台から姿を消す。だが、その痕跡は地中海東岸の地下に、今も残る刻印が語っている。
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■ 東と西に分かれた道
紀元前のある時点で、「霧の盟約」は二手に分かれて旅を始めた。
ひとつは東へ――メソポタミアからインダスを渡り、ガンジスを越え、やがてチベットの山中に辿り着く。そこから再び分かれ、中国、朝鮮、そして東アジア諸島へと“静かなる拡散”を遂げる。
もうひとつは西へ――エーゲ海を抜け、ローマ帝国の陰に隠れながら、北のケルト、ゲルマン部族の中に散り、やがて新大陸を目指す旅団を装って海を渡った。
この時、彼らは何も語らなかった。
ただ、“霧の技法”だけを携え、沈黙のまま、記憶の種子を運んでいった。
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■ キリスト教との衝突
中世末期、教会が霧の存在に気づいたのは偶然ではない。
ある古文書(現存せず)によれば、ローマ教会がインカ帝国の予言を調査中、南米高地で発見された「逆写された福音書」に、“霧の誓い”の一節が含まれていたという。
教会は激怒した。
そして、北米大陸への布教を一気に加速させる。
表向きは“魂の救済”。だが裏の目的は――
「霧の盟約をこの地上から根絶やしにせよ」
それが、ある密会で交わされた宣誓の言葉だったとされる。
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■ 南米、そして「霧の逃亡」
滅亡の危機に晒された霧の盟約の末裔たちは、キリスト教が布教できなかった場所――“聖なる穴”へ逃れた。
それは、スペインとポルトガルの植民地の手が及ばなかった、密林の奥地や失われた高地都市。そこには、征服されなかった言語、記録、そして――掟が今も続いている。
彼らはそこで再編される。
守りを固め、語らず、書き残さず、次なる時代に向けて静かに潜伏した。
それは、人類が「霧を忘れた」と思い込むまで続いた。
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■ 現代、そして「支配のかたち」
霧の盟約はもはや“存在していない”とされている。
だが、実際にはその掟と構造は様々な形で社会に浸透している。
・情報の改ざんを専門とする匿名機関
・金融の流れを予言する旧家系統
・歴史の失われた瞬間にだけ現れる暗号記者
・そして、事件と記録の狭間で動く「影の考古学者」
すべては「霧の掟」を継ぐ末裔たち。
彼らはもはや名前を持たない。存在しない。だが、その影は世界を形作る力を持つ。
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■ サブリナ号と掟の再起動
1902年、南極沖で沈んだ捕鯨船「サブリナ号」には、単なる金塊以上のものが積まれていた。
それは、霧の盟約の核心――“過去に触れる鍵”であり、海底で封じられていた何かを再起動させる導火線だった。
そして、その沈没は偶然ではない。
**霧の盟約が自ら選び、自ら隠した“記憶の沈黙”**である。
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我々が知る歴史は、彼らが許した歴史にすぎない。
真実は霧の奥、沈黙の中、そして金塊の底にある。
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そして、その沈没は偶然ではない。
**霧の盟約が自ら選び、自ら隠した“記憶の沈黙”**である。
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だが、読者よ――最後にひとつだけ付け加えなければならない。
**「南極は大陸ではない」**という事実が、歴史から意図的に塗り替えられたことを。
古代の海図、禁じられた航路、そして沈んだ記憶。

そのすべてが示すのは、南極がただの“氷に覆われた大地”ではなく、**全ての改竄と支配が始まった“起点”**であるということ。

サブリナ号が沈んだ場所――そこは単なる遭難地点ではない。
それは、盟約が選び、封じ、そして世界の目を逸らせた“最初の扉”。
その扉の向こうに何があるのか。
霧の中に立つ者だけが知っている。
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📘次回(第3話)予告:
「ロンドンの陰影 ― 刻印BNZと消された輸送計画」
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この物語は、あなたの記憶と真実の距離を問い直します。